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大阪家庭裁判所 平成12年(少ロ)2002号 決定 2000年5月30日

少年 Y・T(昭和56.10.29生)

主文

本件については、補償しない。

理由

当裁判所は、平成12年4月14日、本人に対する平成12年(少)第968号窃盗保護事件について、送致事実である第1事実及び第2事実中、第2事実については、盗品等無償譲受の限度で認定した上、本人を保護処分に付する必要性がないことを理由として、第1事実については、本人に共謀が成立していたとはいえずその事実が認められないことを理由として、結局、本人を保護処分に付さない旨の決定をした。

一件記録によれば、本人は、同保護事件の送致事実中、第2事実につき、平成12年3月10日から同月21日まで逮捕、勾留され、引き続き同保護事件の送致事実第1事実及び第2事実につき、当裁判所の観護措置決定により同年4月14日まで少年鑑別所に収容されたことが認められるから、少年の保護事件に係る補償に関する法律2条の補償要件はあるものといえる。

しかしながら、前記送致事実である第1事実及び第2事実は、約20分の間に同一実行正犯者において次々と金品をひったくった一連の窃盗事件であって、その一方の第2事実(前記認定した盗品等無償譲受の事実)のみの非行自体の悪質さや身柄拘束当時における本人の要保護性から見て、第2事実だけでも、逮捕、勾留はもとよりのこと、観護措置もなされていた場合であり、かつ、捜査・調査の各経過、内容等に照らし、前記程度の身柄拘束期間を要したものと認められる。

以上によれば、本件は同法3条2号に該当するので、同条本文により本人に対し補償の全部をしないこととし、同法5条1項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 山田賢)

〔参考〕窃盗保護事件(大阪家 平12(少)968号 平12.4.14決定)

主文

本件につき、少年を処分しない。

理由

(非行事実)

少年は、Aが、平成12年3月10日午後0時40分ころ、大阪府摂津市○○×丁目××番××号所在の○□接骨院前路上において、B子からひったくり窃取した同女所有の現金3万6000円位及び印鑑5本等11点在中の手提げ鞄1個(時価合計約5万1600円相当)の内の1万1851円を、そのころ、同市○△×丁目××番×号所在のマンション○△西側プロパン貯蔵所出入口前付近において、その情を知りながら無償で譲り受けたものである。

(適用法令)

刑法256条1項

(認定事実の補足説明)

1 本件送致事実は、

「少年は、Aと共謀の上

第1 平成12年3月10日午後0時20分ころ、大阪府摂津市○△×丁目××番所在の△△株式会社東側歩道上において、自転車で通行中のCの後方から原動機付自転車で追い抜きざまに自転車前籠に入れていた同人所有の印鑑3本等6点在中のショルダーバッグ1個(時価合計4200円相当)をひったくり窃取し

第2 同日午後0時40分ころ、同市○○×丁目××番××号所在の○□接骨院前路上において、B子所有の現金3万6000円位及び印鑑5本等11点在中の手提げ鞄1個(時価合計約5万1600円相当)をひったくり窃取し

たものである。」というにある。

2 付添人は、少年は、窃盗自体の実行行為はしていないし、Aとの間で事前の共謀もしていない旨主張する。

ところで、一件記録によると、本件送致にかかる各窃盗事件は、少年が平成12年3月初めころ、Aに売却したセーター2枚の残代金をAに請求したことを発端としてAが実行した犯行であり、少年としては、Aが右各犯行をなすことによって得た現金から、右残代金と事件当日、少年がAにさらに売却したCD数枚の代金約2000円程度の合計額の支払いをAから受ける予定であったこと、その上で、Aが各実行行為をする間、少年、A双方で約束した所定の場所で少年が待機し、上記第1の窃盗により現金を得ることができなかったものの、さらに引き続いてなされた上記第2の窃盗によりAが得た現金3万6000円位の一部である上記1万1851円を少年が受領したこと、その金額はセーターの残代金やCDの代金の合計額を超えていたが、少年としては、過去Aから奢って貰っていた経緯もあってそれに特段の意味を感じていなかったこと、他方、少年はAより一歳年長であるとはいえ、事件当時は同学年で、相互に上下ないし支配従属の関係にはなく、同一学年同志の対等の間柄であったこと、少年は窃取した現金の一部を上記代金の支払分として取得したい気持ちはあったとはいえ、窃盗の実行行為自体に加わることは頑なに拒否していたこと、一方、Aは、平成12年2月初めころから、大阪市の東淀川区、都島区、福島区のほか、吹田市、箕面市、守口市、寝屋川市、摂津市、高槻市等の各地において合計約50回の多数回にわたるひったくり窃盗を少年とは関係なく、他少年とともに累行していることが認められる。

これら諸点を考慮すると、Aの上記各窃盗の実行行為の発端を少年が作り、実行行為途中においても所定の場所で少年が待機し、窃取した現金の一部を少年が取得しているとしても、そうした事情がなくとも、Aは窃盗行為を自身が単独で充分なし得たし、現に上記各窃盗の前後において多数回にわたってひったくり窃盗を累行している中、本件各窃盗行為をなすにつき少年自身が拒否していたものをA一人が単独で実行したものであって、結局のところ、少年は、単に上記各売却代金の支払いを受けるため金員の請求をし、かつ待機し、その結果上記金員を受領したに過ぎないものといわざるを得ない。従って、共謀共同正犯者としての罪責を問えるだけの共謀関係や教唆、幇助等の共犯関係が少年とAとの間にあったとは到底認め難いというべきである。ただ、Aが上記各窃盗をなした結果得た金員であることを承知のうえで、上記各売却代金の金額を超える上記金員を受領した点で、少年につき、上記認定の犯罪行為が成立することはいうまでもないし、この点は、少年、付添人とも争わない。

なお、少年は、付添人との面接、家庭裁判所調査官に対する調査及び本件審判廷における審問の際、上記各窃盗自体については否認するものの、捜査段階においては、Aとの各窃盗の共謀のあったことを認め、Aも同趣旨の供述をしていたものであるが、そこで両者が述べるところは、Aの上記各窃盗の実行行為の発端を少年が作った上記事実関係や、Aが窃盗の各実行行為をしていることを知りながら所定の場所で少年が待機し、Aが窃取した現金の一部を少年が受領した上記事実関係と大筋において一致し、それら諸事情のあったことをもって、少年とA間に上記各窃盗の共謀をなしたものとして述べるに過ぎないものであって、それら各供述があるからといって、上記認定を何ら左右するものではない。

3 そうだとすると、少年については、上記第1の窃盗は、非行なし、上記第2の窃盗は、盗品等無償譲受の範囲で非行事実を認めるべきこととなり、付添人の上記主張は理由がある。

(処遇理由)

少年は、知能は普通域にあり、高校入学まで特段の問題もなく推移したが、次第に不登校がちとなり、平成10年春、留年し、同年12月6日、原動機付自転車を無免許で運転し(平成11年2月1日講習後不処分決定)、また、アルバイト仲間と音楽グループを組み、そのスタジオを借りる金に困って、本件のAに対し、上記代金の請求をなし、これを機に上記認定にかかる非行に至り、結局、高校も自主退学となったもので、その交遊関係や金銭面に問題を残している。しかし、少年の非行性それ自体は進行しているとはいえず、むしろ、本件観護措置等一連の手続きを通じ、少年の内省は深まるとともに、働く意欲は充分にあり、就職先も決め、保護者の保護能力にも特段の問題は認められない。

以上諸般の事情を考慮すると、現段階において何らかの保護処分に付する必要性がない(上記第1の窃盗についてはできない)と認められ、少年法23条2項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 山田賢)

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